充電器やケーブルのパッケージで「USB PD 3.0対応」「PD 3.1」「PPS対応」「240W」といった表記を見かけて、何が違うのか分からなくなったことはありませんか。USB PDは同じ名前のまま何度も改訂されてきたため、規格名や数字だけでは違いがつかみにくい規格です。
結論から言うと、ふだんスマホやノートパソコンを充電するうえで押さえるべきポイントは「最大何W(ワット)まで出せるか」「PPSに対応しているか」「ケーブルが何Wまで対応しているか」の3つです。この記事では、USB PDの規格(バージョン)の一覧と、PPS・EPR・AVSといった用語の意味、そして手持ちの充電器やケーブルが対応しているかの見分け方を整理します。USB PDそのものの基本は「USB PDとは?高速充電とケーブル一本化のすべて」で解説しています。
USB PDの規格(バージョン)一覧と違い
USB PDはUSB-IFが定める「給電のルール」
USB PD(USB Power Delivery)は、USBケーブル1本でデータと一緒に大きな電力をやり取りするための規格で、USB関連の規格を策定する業界団体USB-IFが定めています(USB-IF「USB Charger (USB Power Delivery)」)。
ポイントは、充電器と機器がつながった瞬間に「何Vで何Aまで流してよいか」を話し合って決める点です。この話し合いを「ネゴシエーション」と呼び、機器が対応している範囲で、充電器が出せる最適な電圧・電流が選ばれます。対応していない組み合わせでも、基本の5Vに落として安全側で給電するのが原則です。
バージョンごとの違い早見表
USB PDのバージョンは、数字が上がるほど「扱える電力の上限」や「電圧の細かさ」が拡張されてきました。いま店頭で見かける製品の多くはPD 3.0以降に対応しています。
| バージョン | 主な特徴 | 最大電力 |
|---|---|---|
| PD 1.0・2.0 | 初期の規格。2.0で現在のUSB Type-C中心の仕組みに整理された | 100W |
| PD 3.0 | 現在の主流。改訂でPPS(電圧の細かい調整)が追加された | 100W |
| PD 3.1(2021年5月発表) | EPR(拡張電力範囲)とAVSを追加。28V・36V・48Vの固定電圧が加わった | 240W |
| PD 3.2(2023年10月公開) | AVSを従来の範囲(SPR)でも使えるよう拡張するなど、安定性・柔軟性を強化 | 240W |
PD 3.1より前は、USB PDの上限は20V×5Aの100Wでした。USB-IFはPD 3.1で、対応するUSB Type-Cケーブルを使えば最大240Wまで給電できるようにしたと発表しています。
SPRとEPR:100Wまでと240Wまでの2つの範囲
PD 3.1以降は、給電の範囲が「SPR」と「EPR」の2つに分けて整理されています。これを知っておくと、「100W」「140W」「240W」といった表記の意味が分かりやすくなります。

| 範囲 | 固定電圧 | 最大電力 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| SPR(Standard Power Range) | 5V・9V・15V・20V | 100W(20V×5A) | スマホ・タブレット・一般的なノートパソコン |
| EPR(Extended Power Range) | 28V・36V・48V | 240W(48V×5A) | ハイエンドノートパソコン・ゲーミングPCなど |
USB-IFによると、EPRでは28Vで140W、36Vで180W、48Vで240Wの給電ができます。「140W対応」の充電器は、PD 3.1のEPR(28V)に対応した製品ということになります。スマホの充電だけならSPRの範囲で十分で、EPR対応の充電器が必要になるのは100Wを超える電力を求めるノートパソコンなどに限られます。
PPSとAVS:電圧を細かく調整する仕組み
PPS(Programmable Power Supply)とAVS(Adjustable Voltage Supply)は、どちらも「固定の電圧ではなく、細かく調整した電圧で給電する」ための仕組みです。電池の状態に合わせて電圧を変えることで、変換ロスによる発熱を抑えながら効率よく充電できます。
| 項目 | PPS | AVS |
|---|---|---|
| 登場したバージョン | PD 3.0の改訂 | PD 3.1(PD 3.2で拡張) |
| 電圧の刻み | 20mV刻み | 100mV刻み |
| 電流制限の機能 | あり | なし |
| 主な対応機器 | 一部のAndroidスマホの急速充電(Samsung Galaxyの超急速充電など) | EPR対応の高出力機器など |
測定機器メーカーのGranite River Labsの解説によると、PPSは20mV刻み、AVSは100mV刻みで電圧を調整し、AVSはPPSと違って電流制限の機能を持たないとされています。スマホの充電器選びで気にするべきなのは主にPPSで、「PPS対応」をうたう機種の急速充電を最大限に使いたい場合は、充電器もPPS対応である必要があります。
USB PD対応の充電器・ケーブルの見分け方
充電器の見分け方:本体の出力表記を見る
充電器がUSB PDに対応しているかは、本体側面や底面に印字された出力表記を見るのが確実です。パッケージや商品ページの宣伝文句より、本体の表記のほうが正確な情報だからです。
USB PD対応の充電器には、出力の欄に「5V⎓3A / 9V⎓3A / 15V⎓3A / 20V⎓3.25A」のように、複数の電圧が並んでいるのが一般的です。5Vだけしか書かれていない充電器は、USB PDに対応していない従来型の可能性が高いといえます。PPSに対応している場合は「PPS:3.3-11V⎓5A」のように、電圧の範囲が別に書かれています。
- 「PD」「Power Delivery」の文字:ポートの近くや本体に記載があるか
- 複数の電圧(9V・15V・20Vなど)の記載:あればUSB PD対応の可能性が高い
- ポートの形状:USB PDは基本的にUSB Type-Cポートで使う。Type-Aポートのみの充電器は通常PD非対応
- 複数ポートの場合の合計出力:「最大65W」でも、2台同時に充電すると1ポートあたりの出力が下がる製品が多い
ワット数(W)とアンペア数(A)の読み方は「充電器の種類・スペックの見方」で詳しく解説しています。
ケーブルの見分け方:60W(3A)と240W(5A)の違い
USB PDで高出力の充電をするには、充電器だけでなくケーブルも対応している必要があります。一般的なUSB Type-Cケーブルは3Aまでの対応で、20V×3A=60Wが上限になるためです。

3Aを超える電流(最大5A)を流すには、ケーブル内に「e-marker(eマーカー)」と呼ばれるチップが入っている必要があります。e-markerはケーブルの対応電流や電圧を充電器に伝える役割を持ち、これがないケーブルでは、100W対応の充電器につないでも60Wまでに制限されます。
| ケーブルの種類 | 最大電流 | 最大電力の目安 | 向いている用途 |
|---|---|---|---|
| 一般的なType-Cケーブル(3A) | 3A | 60W | スマホ・タブレット・小型ノートPC |
| e-marker付き(5A)・100W対応 | 5A | 100W | 一般的なノートパソコン |
| e-marker付き(5A)・240W対応 | 5A | 240W | EPR対応の高出力ノートパソコンなど |
ケーブルは見た目では違いがほとんど分からないため、パッケージや商品ページの「60W」「100W」「240W」「5A」「e-marker内蔵」といった表記で確認します。スマホの充電だけなら60W(3A)のケーブルで十分なことがほとんどです。
USB-IF認証ロゴ(ワット数入り)で確認する
より確実に見分けたい場合は、USB-IFの認証ロゴを確認する方法があります。USB-IFは2021年、認証済みのUSB Type-Cケーブルに「60W」「240W」といった対応電力を示すロゴを導入すると発表しています(USB-IFの発表資料(PDF))。
ただし、認証ロゴの取得は任意で、ロゴがない製品がすべてUSB PD非対応というわけではありません。有名メーカーの製品でも認証ロゴを表示していないものは多くあります。ロゴは「あればより確実」な目印として、本体の出力表記とあわせて確認するとよいでしょう。
スマホ・ノートパソコンがUSB PDに対応しているか確認する
機器側がUSB PDに対応しているかは、メーカー公式サイトの仕様ページで「USB PD」「Power Delivery」「USB Type-C給電」といった記載を探すのが確実です。同じUSB Type-Cポートでも、充電に対応していない、あるいはデータ通信専用のポートもあるためです。
- スマホ:iPhone 8以降のiPhoneや、最近のAndroidスマホの多くはUSB PDでの急速充電に対応している。PPSが必要かどうかは機種の仕様で確認する
- ノートパソコン:Type-Cポートの近くに電源マークがあるか、仕様書に「USB PD対応」「Type-C給電」と書かれているかを確認する。必要なワット数(例:65W)もあわせてチェックする
- その他の機器:モニター・ミニPC・扇風機などは製品ごとに対応状況が大きく異なるため、必ず仕様を確認する
USB PDでうまく充電できないときの主な原因
USB PD対応の充電器を使っているのに急速充電にならない場合は、充電器・ケーブル・機器のどこかが対応していない「ボトルネック」があることがほとんどです。給電の速度は、3つのうち最も能力の低いものに合わせて決まるためです。
- ケーブルが3A(60W)までで、ノートパソコンに必要な電力が出ていない
- 複数ポートの充電器で2台同時に充電し、1ポートあたりの出力が下がっている
- USB Type-A to Type-Cケーブルや変換アダプターを使っている(Type-A経由ではUSB PDは使えない)
- 機器がPPSを必要としているのに、充電器がPPS非対応
充電器自体が熱い、充電が途切れるといったトラブルは「充電器が熱い・充電できないときの原因と対処法」もあわせて確認してください。
用途別:必要なワット数と規格の目安
「どのバージョンが必要か」で迷ったら、充電したい機器に必要なワット数から逆算するのが簡単です。バージョンの数字よりも、必要な電力を満たしているかどうかが実際の充電速度を左右するためです。
| 充電したいもの | 充電器の目安 | ケーブルの目安 |
|---|---|---|
| スマホ1台 | USB PD 20〜30W(機種によりPPS対応) | 60W(3A)で十分 |
| タブレット・小型ノートPC | USB PD 30〜65W | 60W(3A) |
| 一般的なノートパソコン | USB PD 65〜100W | 100W(5A・e-marker付き) |
| 高性能ノートパソコン | USB PD 3.1(EPR)対応 140W以上 | 240W(5A・e-marker付き) |
モバイルバッテリーでも同じ考え方が当てはまります。ノートパソコンにも使いたい場合は、USB PDの出力ワット数が機器の必要電力に届いているかを確認してください。容量の考え方は「モバイルバッテリーの容量(mAh)の目安ガイド」で解説しています。
USB PDの規格に関するよくある質問
- USB PD 3.0の充電器とPD 3.1の機器を組み合わせても使えますか?
-
使えます。USB PDは互換性を保つように作られており、異なるバージョン同士でも、双方が対応している範囲で給電されます。ただし、PD 3.0の充電器では最大100Wまでとなり、EPR(140W以上)の給電は受けられません。
- USB PD非対応の機器に、USB PD充電器をつないでも壊れませんか?
-
通常は問題ありません。USB PDは充電器と機器が通信して電圧を決める仕組みのため、機器が高い電圧に対応していなければ基本の5Vで給電されます。ただし、仕様を満たしていない粗悪な充電器やケーブルでは、この前提が崩れるおそれがあるため、信頼できる製品を選んでください。
- iPhoneはUSB PDに対応していますか?
-
iPhone 8以降のiPhoneは、USB PD対応の充電器とケーブルを使った急速充電に対応しています。Lightning端子のモデルではUSB-C to Lightningケーブル、USB-C端子のモデルではUSB-Cケーブルを使います。
- 「USB PD対応」とだけ書かれた充電器は何Wまで出せますか?
-
「USB PD対応」だけでは最大出力は分かりません。18Wの製品もあれば100Wの製品もあるため、本体やパッケージに書かれた最大出力(W)と、電圧ごとの出力表記を確認してください。
- 100均のUSB PD対応ケーブルや充電器は使えますか?
-
スマホの充電程度であれば使えるものもありますが、対応出力が控えめな製品が中心です。ノートパソコンのように大きな電力が必要な用途では、対応ワット数とe-markerの有無を確認し、条件を満たす製品を選んでください。購入場所ごとの違いは「コンビニ・ダイソー・100均で充電器は買える?」で解説しています。
まとめ:USB PDの規格は「ワット数・PPS・ケーブル」で見分ける
USB PDは、PD 3.0で最大100W、PD 3.1でEPRによる最大240Wへと拡張され、PPSやAVSといった細かい電圧調整の仕組みも加わってきました。ただし、実際の充電で大切なのはバージョンの数字よりも、充電器の最大出力(W)、機器が求めるPPSなどへの対応、そしてケーブルの対応電力(60Wか100W・240Wか)の3点です。
本体の出力表記とケーブルのW表記を確認し、充電器・ケーブル・機器の3つがそろって対応しているかをチェックすれば、「USB PD対応なのに速く充電できない」というトラブルはほとんど防げます。
